目次


開催案内

日時

2018年11月8日(木曜日)午後3時から

 

場所

理学部6号館401講義室
アクセス 建物配置図(北部構内)【4】の建物

 

プログラム

15:00〜 ティータイム

15:15~

 

「生物の状態変化をどのように記述すべきか:実験室進化と理論解析」
古澤 力氏
理化学研究所 生命システム研究センター 多階層生命動態研究チーム・チームリーダー
東京大学 理学系研究科 物理学専攻・教授

 

生物システムは、適応や進化といった現象に見られるように、環境変化に対して柔軟にその内部状態を変化させることが出来ます。では、生物のような複雑なシステムが、どのようにして安定に内部状態を変化させることが出来るのでしょうか?その現象をどのように記述し理解すべきでしょうか?こうした問いに答えるために、微生物をさまざまな条件下で培養し、そこで繰り広げられる適応進化のダイナミクスを調べています。理論解析と実験、そしてデータ解析を組み合わせることにより、細胞の状態遷移を理解することを目指していますが、今回の講演ではその現状と展望を議論したいと思います。(講演終了後、質疑応答)

16:30~

「では、教えてくれ。生命の起源の’生命’とはなんのことだ。’生命’ が何かを知らずに、生命の起源を研究していると言うのか?(海原雄山風に)」
高井 研氏
海洋研究開発機構 深海・地殻内生物圏研究分野・分野長

 

私は割と真面目に、「生命の起源」を解明するためには、地球生物以外の生物を理解しないと無理ンゴ!と思っています。それは「人類の起源」の解明に人間以外の生物との相対的な比較が必要なのと同じように、地球生物と地球外生命との比較によって初めて、「生命とは何か」とか「生命の起源」についての一般解と特殊解のような本質的な理解に辿り着くことができると思うからです。とは言うものの、地球の生命の研究からも、ある程度は本質的な理解に辿り着くこともできるかもしれません。皆さんとそのような議論をしてみたいと思います。(講演終了後、質疑応答)

17:45~ 懇親会 *学生無料 / 教職員1,000円程度
 

備考

*理学部・理学研究科の学生・教職員が対象ですが、京都大学の方ならどなたでも聴講できます。申し込み不要。


講演動画

『生物の状態変化をどのように記述すべきか:実験室進化と理論解析』古澤 力 氏

 


開催報告

古澤 力氏
 
高井 研氏
 

第6回MACSコロキウムの前半では、古澤力さん(東京大学大学院理学系研究科物理学専攻/理化学研究所生命システム研究センター)に講演タイトル「生物の状態変化をどのように記述すべきか:実験室進化と理論解析」でお話していただきました。

 

導入部では、後半の高井さんの講演タイトルに呼応するように、「人工システムと生命システムは何が違う?」という問いを提示し、システムの安定性と可塑性こそがあるシステムが生命たる性質であろうという視点を展開した。この背景をもとに、実際の大腸菌の代謝ネットワークを例に、揺らぎに対する安定性と可塑性について、大自由度ネットワークからそれらの2つの性質を適切に記述できる低次元の状態空間を取り出すこと(射影)の重要性を指摘され、以下の古澤さんの研究へ向かう動機とされた。

 

最初に、状態空間の低次元への射影の例として、定常成長細胞において細胞内化学物質濃度の変化率が細胞増殖量の変化率に比例するという理論を提示され、実際にその理論が実験のデータ傾向と一致することを示した。

 

次に、複製細胞のモデルとして、代謝ネットワークにランダム変異をいれて増殖率が高くなるように自然選択を与える数理模型を考える。この系では、十分進化後に系の摂動応答が低次元状態空間に拘束されることを示した。

 

また時間と手間のかかる工程を機械自動化した、大腸菌の進化実験についても紹介された。その実験系では95種類の阻害剤を使用し、阻害剤の生存最大濃度を使って、大腸菌の交差体制・交差感受性と遺伝子発現量との有意な相関、またゲノム配列変化との無相関傾向が見られた報告をされた。

 

表現型のゆらぎと遺伝子型のゆらぎで決まる進化可能条件、現在進行形実験である細胞の生存選択と表現型のフィードバック制御、そして同一種内にとどまらないような細胞状態撹乱を加えたときの系の応答などにも触れられ、最後まで質問が飛び交う白熱した交流となった。

 

 

コロキウム後半では、高井研さん(海洋研究開発機構深海・地殻内生物圏研究分野)に講演タイトル「では、教えてくれ。生命の起源の’生命’とはなんのことだ。’生命’ が何かを知らずに、生命の起源を研究していると言うのか?(海原雄山風に)」でお話していただきました。

 

導入部では、ご自身が「海のNASA」と呼称される海洋研究開発機構の世界でもトップクラスの海洋探査船リストと、それらを持ってしても踏破には程遠いマリワナ海溝探査について、探査当事者でしか知らないような稀有な経験談を繰り広げた。以前は海溝底辺での探査距離限界5mだったが、海溝底辺30万”m”走行を目指し、それに及びはしないものの10万”cm”を達成し、これによってマリワナ海溝には予想よりもはるかに豊富な生態系を持つことを発見したというエピソードについて、ユーモアをふんだんに盛り込んで紹介された。

 

またコロキウム前半の古澤さんの視点とはまた異なる、生命生存環境の極限条件を見極めることにより、生命それ自身の理解にアプローチするという視点の重要性を強調された。実は、温度、pH、圧力、重力に関する生命が生存できる4つの極限条件の世界記録は、高井さんと所属の海洋研究開発機構のグループが見つけている。

 

また、生命生存条件をエネルギーに関する2つの量の関係式で表したMcCollom-Shock予想は定量的な予言ではなかったが、ご自身のグループによってこの枠組みに定量的な予言を与え、かつ約10年にもわたるフィールドワークを通して探査した海底熱水噴出孔のサンプルが、その定量的なMcCollom-Shock予想と矛盾しないことを示した。

 

最後には、生命誕生の必然性についての理解を進めるためには、地球の生命とは異なる生命を見つけること、それが一番期待される土星衛星Enceladusのフライバイ探査の必要性を強調され、そこに至った高井さんの観測事実と仮説の組み合わせについて参加者と白熱した議論が続けられた。(文責 太田洋輝)